6/10更新!脳卒中の方へのリハビリで意識していること

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脳卒中の方から、ありがたいことに直接ご相談を頂く機会が何度かあります。

そこで、私の脳卒中の方へのリハビリの際に考えていること、意識していることを書こうと思います。運動麻痺や感覚麻痺をお持ちの方に対して、麻痺側の手足を少しでも動かしやすく、そして生活場面で使えるようになるために、私は以下の3つのことを大切にしています。

 

①上手く動かすためのルールを見つける(5/26更新)

②実感を大切にする(5/27更新)

③一人でできる練習方法を見つける(6/1更新)

おまけ:本人の協力は絶対不可欠!!(6/10更新)

以下に1つずつ詳しく書いていこうと思います。

①上手く動かすためのルールを見つける

脳卒中の方は、運動・感覚麻痺によって、力の入りやすい筋・力の入りにくい筋、感覚の感じやすい場所・感じにくい場所ができてしまいます。

それにより、これまで通り自分の手足を”普通に”動かすことができなくなってしまいます。そしてそこには損傷された部位の要因や、病前からの要因など、様々な要素が影響し合っています。

 

元々、どう動かしていたかを知らないー普通に動かすことの難しさー

私たちは、日常生活の中で自分の身体の使い方を深く考えることなく、頭の中では他ごとを考えながらでも大きな失敗もせず、箸を使って食事をしたり、お風呂に入ったり、階段を登ったりすることができます。

 

私たちは、生まれてから様々な運動経験を通じて、寝返りや起き上がり、四つ這い、立ち上がり、立位、歩行を獲得していきます。その獲得のプロセスは、脳卒中を発症した方が入院中のリハビリで、セラピストと行うような「○○に力を入れて!」「膝を伸ばして!」「お尻を引かないで!」といった言語的な指示のもとに獲得されてきた訳ではありません。

 

赤ちゃんの発達を見ると、言葉が十分発達する以前に歩行を獲得していきますね。1歳をすぎて、まだ”骨盤””股関節”といった言葉に出会う前から、立位でバランスを取り、足を出し前進していきます。

 

成人でも同じです。セラピストが学校で習うような踵から接地し、下腿(すね)が前傾し…といったいわゆる正常歩行で起こるべきメカニズムなんて一般の人は知りません。しかし一般の方でもそれらのメカニズムは働き、歩くことは当たり前にできています。

 

歩く時に何が起こっているか気にすると、今度は歩きが不自然になります。頭で考え、感じようと意識的になりすぎてしまうといわゆる自然な動きは起こりにくくもなります。

ただ歩いていない時に、私たちは「歩いている」と錯覚することはありません。歩いている中で、意識に上らないレベルで私たちは「歩いている」ということを感じ取っています。

 

元々気にすることなく、当たり前にでき、そして意識に上らないレベルで、手足を目的に応じて無駄なく、スムーズに動かしたり、歩くなどの動作はできていました。

それが脳卒中の発症を境に急にできなくなってしまいます。そこで初めて当たり前に動かすことの難しさに直面します。

 

脳卒中になり、病前のように手足があることを感じ、思い通りに動かすためのルールを一緒に見つけていく。これは脳卒中になった方には人生で初めての経験であるともいえます。

 

どのように動かせば良いのか分からない。

脳卒中の後、患者さんは自分の手足が思い通りに動かないことを経験します。

また見た目では、何とか動いたとしても、病前とは全く異なる感じがしたり、または動く感覚を感じ取れなくなっていたりと、見た目と実際の動く感じは一致しない状況にあります。

 

動いてはいても、どう動いていたら良いのか?悪いのかを判断できない場合、

・より高く手や足が上がっていた方が良い、という視覚的な動きの大きさを頼りにする。

・より力が入っている感じがした方が良い、と力をできるだけ入れ筋肉が硬くなる感じを頼りにする。

・歩行などの動作の場合、麻痺側の手足をどう使っているか?よりも動作ができるかできないか(転ばずに歩けるかどうか)?を頼りにする。

 

そうなることで

①上手く動かすためのルールを見つける

脳卒中の方は、運動・感覚麻痺によって、力の入りやすい筋・力の入りにくい筋、感覚の感じやすい場所・感じにくい場所ができてしまいます。

という元々、運動・感覚の使いやすい部分と使いにくい部分が存在する状態で、さらに使いやすい部分(力を入れやすい・感覚が分かりやすい)部分に頼ることで、使いやすい部分はより強く・硬く、使いにくい部分がより弱く・分かりにくくなっていき、そのアンバランスが強くなっていきます。

上手く動かすために

上手く動かせない大きな原因は、

使いにくい・分かりにくい部分にあります。

病前は普通に働き・感じられていた部分が、鈍くなったりなくなったりします。私はその部分を見つけ、サポートすることで評価をしていきます。サポートすることで上手く動くのか?動く感じがするのか?を本人と確認しながら、どこが弱いのか鈍いのかを一緒に探していきます。

そしてその部分は、その方自身で使えるようになるのか?分かるようになるのか?も評価していきます。問題となる部分があったとしても、脳卒中による損傷部位やダメージの大きさによってはその問題となる部分をアプローチしたとしても、本人の実感できるような変化が出ない場合もあります。

いくつか評価で出てくる問題点の中で、どれが本人にとって変化を感じやすく、実感を伴うか?を見つけ、介入していきます。

そしてその方がご自身でできる方法を提案していきます。一人でできなければ、生活にもつながりませんし、セラピストがいないとダメ!!という依存につながってしまいますから。

②実感を大切にする

実感、すごく大切です。

その方自身の身体が動いている感じ、身体を動かしている感じ、動かしたいだけ・動かしたい速さで・動かしたい強さ/柔らかさで動かす感じ。立てる・歩ける感じ。その感触が自身で分かることがすごく大切です。そうした目に見えないが本人にとって、感じ取れる内面の変化が重要だと思います。動く感覚は筋紡錘というセンサーの働きが重要になります。筋の長さや緊張の変化を感じ取るセンサーで、この働きにより自身の姿勢がどうなっているのか?今どこが動いているのかを感知していきます。

 

動きのパターンが変わる時、内面の変化が必ず起こります。その内面の感じ取りの差が動きのパターンの差になり、パターンの数を増やしていくきっかけになります。

そして、ただ本人の内面が変わるだけでは不十分です。それが目に見えたり、数字で分かる結果につながることが大切です。本人としては変わった感じがしても、実際の生活場面では何も変わらない…では良くなった実感が生まれにくいからです。

 

本人にしか感じられない内面の変化が生じ、さらにそれが実際の生活場面での変化に結びつくことで、はじめて良くなった、という実感が生じるのではないでしょうか?

運動主体感を大事に

自分で自分の身体を動かしている、という運動主体感が実感のためには大切です。そのためには自らの運動指令に伴う運動出力と、実際の運動に伴う感覚フィードバックが一致する必要があります。

そしてその感覚フィードバックには前述した筋紡錘からの運動感覚と、視覚的な運動肢・関節の動き、皮膚の伸長感、関節圧、重心移動に伴う足底圧の位置と強さの変化といった様々な種類の感覚が、様々な場所から同時に入ってきます。

手を挙げている、座っている、立っているという意識に上がる知覚は、上記の種々の感覚の複合体として生まれます。

例えば、

立っているという知覚が生まれるには

立位で生じる様々な感覚をA,B,C

立位保持の運動指令に伴う出力をD

とすると

 

A+B+C+D → Z

 

出力(D)とそれに伴う感覚(A,B,C)が生じることで

立っている(Z)という知覚(意識)が生まれることになります。

 

通常、私たちは”立っている”という”Z”の知覚しか意識に上がることはありません。そもそもそんなことすら意識にも上がらず生活してますよね。

そしてその立っているという知覚を生み出している

A,B,Cの感覚情報やDの運動出力は、実際には1つ1つを個別に感じることはありません。そこが臨床で非常に難しい所なんですね。実際にどんな感覚やどんな運動出力をしているか、本人もよく分かっていないんですね。

ただ脳卒中になると運動麻痺ではDが、感覚麻痺ではA,B,Cのいずれかまたは全てが低下したり欠如したりします。

例えば感覚Bが欠如し、A,Cが鈍麻(A’,C’)、運動麻痺により出力Dが変化(D’)してしまったとすると、

A’+C’+D’ → Z’

(感覚Bは欠如のため式に含めない)

 

という式となり、

立っている知覚Zも以前とは全く違う経験となります。

見た目は立っていたとしても、その方自身が感じている経験は病前とはまるで違うということになります。

 

私たちは本来の立っているという知覚:Zを生み出すために

感覚A,B,Cのどれが低下したり欠如しているのか?

運動出力Dは何なのか?どうしたら本人が出力できるのか?

課題の中で運動出力Dに伴う、A,B,Cのフィードバックを一致でき、運動主体感を再度生み出すことができるのか?

を考えていくことになります。

③一人でできる練習方法をみつける

病院のリハビリは環境も整っており、ご本人の能力や状況に応じて様々な設備や物品を使用しながら行うことができます。

充実した所では複数のセラピストが同時にサポートすることもあります。

そして回復期であれば毎日、多いところでは数時間セラピストが関わることができますね。

 

しかし在宅に戻るとどうでしょうか?回復期で行えた高頻度で集中的なリハビリは提供が難しくなります。

 

訪問リハビリも1週間に介入できる頻度、時間は制限があります。介護保険であれば40分×3回または60分×2回が上限です。

いずれ自立した生活を目指していくのであれば、自身の身体のコンディショニング、さらには体力面や麻痺肢の残存能力向上のためのセルフトレーニングといった部分まで、ご本人の生活に落とし込む必要がありますよね。

 

ダイエット同様、自身のコンディショニングの継続はなかなか難しい部分もあります。

特に自身が変化する実感がない自主トレは継続が難しいですよね。

「これやってる意味あるのか?」なんてのはホントに続きませんし、そもそも初日からやりません(笑)

だからこそ②で挙げた実感が非常に大切になります。

一人ででき、

かつ麻痺肢の動きや感触が変化し、日常生活で困っていることの解決や軽減、やりたいことへとつながっているという実感ができる

という課題の提案が必要になります。

 

そこでセラピストの力量が求められます。

脳卒中の方自身が、目的とする動作の遂行や関節運動、姿勢制御のために、本来必要だが、使いにくい/動かしにくい、感じにくく日常的な生活の中で参加できていない部位や感覚をいかに参加させられるか

それを本人が一人ででき、かつ上手くできているかいないかが分かり、さらにその課題が困っていることの解決や、目標とする動作の獲得や改善につながる実感を伴う

そんな課題の提示ができるかどうか?

そのためにセラピストは評価から、仮説検証を繰り返し、適切なレベルに設定する必要があります。

・どれだけの身体部位・要素を参加させるか?

1つなのか複数なのか?注意の持続・配分能力はどうなのか?複数の身体部位を参加させる場合、それぞれの身体部位の目標は何なのか?

例)リーチングであれば体幹・手首は保持、肩は方向制御、手指(手首)はプレシェイプ〜把持操作、上肢全体では重さを保持しておくことが前提。下肢まで考えれば骨盤の制御ができているか?など。

・どんな知覚経験をして欲しいのか?そのために必要な複合感覚の個別の要素は何なのか?

上記のリーチングを課題とした場合、もしかすると本人は、目の前にある物をつかめば(どんな運動パターンで行なっていたとしても)成功だと思っているかもしれません。

目的は、どんな方法でも良いから掴めば良い、というわけでなく、上記のような身体各部位が必要な役割を果たすことだとすると、手を伸ばし、物を掴む間のプロセスがどうなっているか?を本人がモニタリングしながら、「どのように自分の身体を使っているか?」を認識してもらう必要があります。

そのためには、

腕を持ち上げるとは?持ち上げ保持しているとは?

物をつかんでいると分かるには?

手を伸ばすと分かるには?

どのような感覚が必要なのか?そしてどのような運動出力と複数の感覚フィードバックの一致が必要なのかを考えていく必要があります。

・運動主体感を生み出せているか?

上記の運動出力と複数の感覚フィードバックの一致が、上手く/自然に動かしているという運動主体感につながります。

そのために重力下において、運動すべき身体部位を空間で保持できるか、関節運動を起こすことができるのか?といった筋出力の最大能力を評価しながら、

免荷によって本人の持っている出力を実際の関節運動につなげる。

徒手的なサポートによって、筋収縮感覚やその他の感覚を分かりやすくし、出力ー入力の関係性を再度学習していくことが大切になってきます。そしてずっとセラピストがサポートしていくのではなく、徐々に本人自身でその感覚を頼りに、運動を再現できるよう導きます。このサポートの量と質が、本人の運動学習をスムーズに進めるために重要になってきます。

おまけ:本人の協力は絶対不可欠!!

では最後です。

セラピストは脳卒中の方の、新たな身体・運動認識を実感するきっかけをサポートします。

でも、あくまでサポートです。

身体を動かすために筋に指令を出したり、ある部位の感覚を感じ取るために注意を向けるのは本人にしかできません。

セラピストは、

本人が力を入れやすくなる、動きやすくなる、今まで感じなかったこと・感じようとしていなかったことに気づくためのチャンスを作り出す。そしてそれが本人の抱えているニーズにつながり、その変化を実感し、その変化が本人にとって意味のある経験を作り出す。

そういったことをサポートします。

生活期の方ではその変化もわずかですし、変化にも時間がかかります。

身体的・認知的な変化がすぐさま生活の改善に直結しないこともあります。

諦めてしまいそうになったり、何のために今この課題をやっているかが見えなくなりそうなこともあるはずです。

 

セラピストは、その中でも、本人に目的を伝え、このわずかな変化が将来何に繋がるかを伝え、ゴールを少しでも明確にし、本人の迷いや不安を少しでも軽減し、共に前に進んで行く必要があります。

 

脳卒中の方がやる気がないから、リハビリに消極的だ、で片付けてしまえば、共に前に進むことはできません。

どうしたら一緒に前に進めるのか?脳卒中の方と共に悩み、考えていく必要があります。

 

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とはいっても実際の介入でお悩みのセラピスト向けにハンドリングのセミナーを開催します★

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8/19.20愛知「上肢〜体幹〜下肢のタッチ・ハンドリングの考え方と実践」

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③9/17,18東京「上肢〜体幹〜下肢のタッチ・ハンドリングの考え方と実践」

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では以下の記事は徐々に追記していきます。お楽しみに!

 

 

 


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